「よし、素晴らしい!」監督の満足げな言葉とともに、またひとつのシーンが順調に終了した。
「次のシーンは衣装替えが必要です。スタッフは急いで俳優を準備させてください。」監督は台本を手に取り、次の撮影シーンを確認しながら、マイクを持って指示を出した。
鈴木和香の今日の撮影用の衣装と靴は、すでに全て用意され、更衣室に掛けられていた。馬場萌子は監督の指示を聞くと、すぐに前に出て、鈴木和香を更衣室へと案内した。
馬場萌子が手を伸ばして更衣室のドアを開けようとした瞬間、突然ドアが内側から開かれ、若い女の子が慌てて出てきた。彼女は鈴木和香の顔を見ることもできず、うつむいたまま「鈴木姉、こんにちは」と言って、急いで立ち去った。
時間が限られていたため、鈴木和香も馬場萌子も深く考えることなく、更衣室に入り、素早く衣装とハイヒールに着替えて、撮影現場に戻った。
このシーンは、男性二号が女性二号が自分の恋を台無しにしたことを知り、女性二号に責任を追及しに来るという内容だった。
最初に撮影されるショットは鈴木和香のもので、彼女はプールサイドのパラソルの下で、静かに本を読んでいる様子だった。
これは静的な撮影だったので、鈴木和香は事前に用意された本を持って、きちんと座っているだけで、カメラマンがショットを選ぶのを待つだけでよかった。
ショットが決まり、監督の合図で、スポーツカーに座っていた来栖季雄がアクセルを踏み、車は鈴木和香のいる場所に向かって猛スピードで突っ込んでいった。そして鈴木和香の近くまで来たところで急ブレーキをかけて停止し、来栖季雄は車から降り、ドアを激しく閉めて、怒りに満ちた様子で鈴木和香に向かって歩いていった。
鈴木和香は来栖季雄を見ると、すぐに明るい笑顔を浮かべた。彼女が男性二号の名前を呼ぼうとした瞬間、来栖季雄は鈴木和香の手から本を奪い取り、地面に投げつけ、そして彼女に向かって怒鳴り始めた。
ここまでのシーンは、全てが順調で見事な出来栄えだった。次の展開では、来栖季雄が鈴木和香に二度と会いたくないと言って立ち去ろうとする時、鈴木和香が少し慌てて手を伸ばして来栖季雄を引き止めようとするが、来栖季雄に強く振り払われ、その勢いで鈴木和香が地面に倒れるというものだった。