来栖季雄はいつも素早く役に入り込み、また素早く役から抜け出すことができた。彼と共演した人たちは、撮影が終わると相手役と一言も交わさずに立ち去る彼の態度にもう慣れていた。
監督がカットを掛けるとカメラは撮影を止め、見物人たちは来栖季雄と鈴木和香のいる場所からある程度離れていたため、二人の間の微妙な様子に誰も気付かなかった。
監督は頭を下げて先ほどの撮影内容を確認し、すぐに立ち上がると、まず来栖季雄の演技を褒め称えた後、鈴木和香の方を少し感心したような目で見て、惜しみなく褒め始めた。「和香さん、今のシーンの演技は本当に素晴らしかった。私は来栖社長と長年仕事をしてきましたが、松本雫以外で彼の演技に付いていける人はほとんどいませんでした。それなのに、あなたは一発で成功し、しかもアドリブの演技が特に素晴らしかった。すごい、すごい!」