第72章 人々を驚かせる演技(4)

撮影はここで終わりのはずだった。

しかし、撮影現場は静まり返り、監督の「カット!」の声がなかなか聞こえてこなかった。

来栖季雄は鈴木和香の指が自分の頬に触れた瞬間、全身が強張った。生まれつきの強い自制心のおかげで、酔って眠るふりをしている穏やかな表情を保てていたが、そうでなければとっくに取り乱していただろう。

鈴木和香の「どうして私じゃないの?」という優しく悲しげな言葉とともに、カメラに映らない側の手は強く握り締められた。そして彼女の頭が自分の胸に寄り添い、心臓の鼓動が速くなるのを感じ、呼吸も乱れ始めた。そして、シャツに湿り気を感じた。

彼女の涙だろうか?

来栖季雄はついに我慢できずに目を開けた。目を閉じて涙を流す少女の悲しげな表情が、彼の目に飛び込んできた。

彼女の表情があまりにも本物そっくりで、来栖季雄はその瞬間、これが彼女の素の演技なのではないかと思った。彼女は本当は自分のことが好きなのだろうか?だからこそ、人を好きになる気持ちをこんなにも完璧に、リアルに表現できたのだろうか……

来栖季雄は喉が上下に動き、思わず手を上げて彼女の頬の涙を拭おうとした。

しかしその時、監督の声が突然聞こえてきた。「カット!」

鈴木和香は監督の声を聞くや否や、すべての悲しみと苦しみを一瞬で消し去り、躊躇することなく来栖季雄の胸から素早く頭を離した。

来栖季雄の上げかけた手は宙に止まったまま、彼は鈴木和香を見つめ、注意深く観察したが、もはや彼女の顔には一片の悲しみも苦痛も見られなかった。

演技から抜け出した鈴木和香は来栖季雄を見ることさえできず、彼が手を上げていたことにも気付かなかった。ただ、ちらりと来栖季雄を盗み見た時、男性が自分をじっと見つめているのに気付き、心臓が一拍飛び、少し気まずそうに言った。「今のシーン、アドリブだったんです。事前に相談できなくて、本当にすみません。」

その一言で、来栖季雄の上げていた手は強く握り締められ、元の位置に戻った。そして心の中に薄い自嘲の念が浮かんだ。

現実が証明したように、また一度彼は考え過ぎてしまった。毎回自分の考え過ぎだと分かっているのに、それでも自ら恥をかくような証明をしてしまう。