第78章 あなたは本当に正直ね(2)

鈴木和香の心の中に、馬場萌子の言葉によって浮かんでいたかすかな期待は、来栖季雄によってこうして打ち砕かれてしまった。

馬場萌子の言葉を信じていた。彼が数年連続で影帝を獲得し、撮影は常に一発OKだったことを、どうして忘れられただろう。彼が飛び込んで彼女を救ったのは、彼女を心配してのことではなく、ただ演技に付き合っただけだった。

冷水に浸かったせいで、鈴木和香の顔は血の気が失せて青ざめていた。彼女は必死に表情を平静に保とうとしていたが、彼女の後ろに立っていた馬場萌子は、不満げに口を開いた。「来栖社長、和香が水に落ちたのは故意じゃありません。誰かが和香のハイヒールを細工して壊したから転落したんです。和香はただ、これまで撮影した分が無駄になるのを恐れて、咄嗟の演技をしただけなんです……」