林夏音の話が終わると、彼女と一緒に入ってきた人たちは皆、彼女を慰める言葉を一言二言かけて、前後して出て行った。
トイレ内は一瞬にして静まり返った。
鈴木和香は便器に座ったまま、先ほど外で交わされた会話を頭の中で最初から最後まで思い返し、そして大体の状況が分かってきた。
今夜、数人の投資家が来ていて、撮影クルーは休憩室のカラオケで個室を取っていた。林夏音と来栖季雄も居て、おそらくみんながカラオケを歌っている時、来栖季雄は一人黙って座っていたので、林夏音が近寄って来栖季雄を誘って一緒に歌おうとしたところ、来栖季雄に皮肉を言われたようだ。
来栖季雄は性格が孤独がちで、普段から近づきにくく、あまり話さない人だが、一度口を開くと要点を突いた物言いをする。皆の話によると、今夜来栖季雄が林夏音を皮肉った時は声が小さくなかったらしく、個室内の全員に聞こえ、監督までも一緒に罵られたという。