この世界で、彼を最も愛していた母親が去った後、彼の性格はより一層孤独になっていった。
椎名佳樹の父親、つまり彼の祖父は、年を重ねるごとに離れて暮らす孫が恋しくなり、祝日や正月になると、必ず人を遣わして彼を呼び寄せ、家族団らんの食事をするようになった。
赤嶺絹代は反対こそしなかったものの、彼に対する態度は常に軽蔑的だった。そして実の父親は、彼を一度も真剣に見ようとしなかった。椎名佳樹が「お父さん」と呼ぶのを見て、彼も一度「お父さん」と呼んでみたが、結果として椎名一聡の叱責と赤嶺絹代の罵倒を受けることになった。それ以来、「お父さん」という言葉は、彼の人生から完全に消え去った。
子供は大人に比べて、常にこの世界で最も純粋な存在だ。椎名佳樹は自分と来栖季雄に何の違いも感じていなかった。むしろ、自分より2時間だけ年上のこの兄が好きだった。そのため、よく来栖季雄に近づいて「お兄ちゃん」と呼びかけていた。赤嶺絹代がそれを見ると椎名佳樹を叱りつけたが、男同士の間に芽生えた絆は、一度形成されると壊れにくいものだった。