第102章 愛してはいけない深い愛(8)

この世界で、彼を最も愛していた母親が去った後、彼の性格はより一層孤独になっていった。

椎名佳樹の父親、つまり彼の祖父は、年を重ねるごとに離れて暮らす孫が恋しくなり、祝日や正月になると、必ず人を遣わして彼を呼び寄せ、家族団らんの食事をするようになった。

赤嶺絹代は反対こそしなかったものの、彼に対する態度は常に軽蔑的だった。そして実の父親は、彼を一度も真剣に見ようとしなかった。椎名佳樹が「お父さん」と呼ぶのを見て、彼も一度「お父さん」と呼んでみたが、結果として椎名一聡の叱責と赤嶺絹代の罵倒を受けることになった。それ以来、「お父さん」という言葉は、彼の人生から完全に消え去った。

子供は大人に比べて、常にこの世界で最も純粋な存在だ。椎名佳樹は自分と来栖季雄に何の違いも感じていなかった。むしろ、自分より2時間だけ年上のこの兄が好きだった。そのため、よく来栖季雄に近づいて「お兄ちゃん」と呼びかけていた。赤嶺絹代がそれを見ると椎名佳樹を叱りつけたが、男同士の間に芽生えた絆は、一度形成されると壊れにくいものだった。

ほら、椎名一聡の父、つまり彼と椎名佳樹の祖父が亡くなった後、彼は二度と椎名家の門をくぐることはなかったが、椎名佳樹とはますます付き合いを深めていった。

来栖季雄が鈴木和香の存在を知ったのは、ちょうどその頃だった。

鈴木夏美、椎名佳樹、そして来栖季雄は同い年で、鈴木和香は彼らより2歳年下だった。鈴木家は二人の姉妹を一緒に通学させるため、小学校の時に鈴木和香を2学年飛び級させた。

椎名家と鈴木家は近所で、放課後になると椎名佳樹、鈴木夏美、鈴木和香の三人はよく一緒に帰宅していた。当時、椎名佳樹と来栖季雄は中学生で、放課後にグラウンドでサッカーをするのが好きだった。鈴木夏美はよくグラウンドの外に立って、大声で椎名佳樹を呼んで帰ろうとしていた。

まだ中学生の頃から、鈴木和香と鈴木夏美は男子生徒の注目を集めていて、みんな内々で彼女たちを「夏美姉」「和香」と呼んでいた。

「夏美姉」こと鈴木夏美は大らかで活発な性格で、鈴木和香は彼女と比べると静かで穏やかだった。二人の姉妹の美しさを比べると、鈴木和香の方が断然美しかったが、鈴木夏美の性格は人の目を引きやすく、そのため鈴木夏美がグラウンドで椎名佳樹を呼ぶたびに、みんなは口笛を吹いて「夏美姉」と声をかけていた。