第103章 愛してはいけない深い愛(9)

たぶんあの時から、彼は彼女のことを意識し始めたのだろう。少年の心は、まだ恋とは何か、ときめきとは何かもわからないまま、ただ放課後にバスケをする時、彼女の姿を見ると心が安らぎ、見えないと何かが足りないような気持ちになるだけだった。

彼は半年以上もの間、そっと彼女のことを気にかけ続けた。そしてある日の放課後、大雨が降った時、現実の世界で初めて彼女と近い距離で接することになった。

その時、彼は傘を持っていたのだが、カバンから取り出そうとした瞬間、彼女が見えた。カバンを頭の上に載せ、路端の軒下に向かって走っていく姿を。その時の彼は何がどうしたのか、傘をカバンに押し込んで、彼女の後を追いかけてその軒下に駆け込んだ。

当時、彼は片方のイヤホンで福山雅治の曲を聴いていたが、彼女と並んで立った時、音楽を止めた。イヤホン越しに、ザーザーと降る雨の音が聞こえた。最後まで彼は彼女の方を振り向いて見ることはなかった。正直に言えば、その時の彼は少し緊張していた。雨が小降りになり、立ち去ろうとした時になってようやく彼女の方を見たら、彼女が自分をじっと見つめているのに気づいた。その瞬間、心臓の鼓動が激しく速くなり、彼は慌てて視線をそらし、足早に立ち去った。

その後、彼女と近い距離で接したのは、高校一年生の入学式の日だった。

実は彼はその高校に行きたくなかった。学費が高かったからだ。その時までに、母親が残してくれた貯金をほとんど使い果たしていた。でも椎名佳樹から彼女がその高校に入学したと聞いて、母親の遺した装飾品を売り、夏休み中のアルバイト代を足して、その年の学費を払ったのだ。

入学式の日、彼は意図的に椎名佳樹と一緒にいた。ほら、椎名佳樹が紹介してくれた時、彼は自分から名前を言おうと思ったのだが、いつもの無愛想な態度のまま、ただうなずいただけで、椎名佳樹が彼の名前を彼女に伝えた。