第110章 言えない秘密(4)

鈴木和香の言葉は喉元で途切れ、驚いて来栖季雄の方を振り向くと、男の表情が知らぬ間にさらに冷たくなっていることに気づいた。車に乗った時よりもさらに険しい表情に、彼女は唇を動かしたものの、結局何も言えなくなってしまった。

車内は再び乗車時のような重苦しい雰囲気に包まれた。鈴木和香はその圧迫感から逃れるため、カーラジオのコマーシャルに意識を集中させた。

しかし、コマーシャルが流れて2分も経たないうちに、音楽が流れ始めた。そのイントロはどこか懐かしく、昔よく聴いていた曲だった。ただ、学生時代から随分と時が経っていたため、すぐには曲名が思い出せなかった。

長めのイントロが流れた後、ようやく歌声が聞こえてきた。鈴木和香は一言聞いただけで、それが福山雅治の声だとわかった。

「冷めたコーヒーがコースターを離れ、押し殺した感情が後ろに残る、必死に取り戻そうとした過去が、私の顔にかすかに見える、一番美しいのは雨の日じゃない、君と雨宿りした軒先なんだ……」

鈴木和香はこの歌詞を聴いた瞬間、この曲が『言えない秘密』だということを思い出した。

実際、福山雅治には数多くの名曲があり、特に彼女が学生だった頃は、学校中の人が彼を崇拝していた。しかし、鈴木和香はこの曲だけが特別だった。それは他でもない、「一番美しいのは雨の日じゃない、君と雨宿りした軒先なんだ」というフレーズのためだった。

当時、『言えない秘密』という映画を見に行ったのは、ただ単に福山雅治が自分のアイドルだったからだ。正直なところ、映画自体には特に感動はなかったが、最後に福山雅治がピアノを弾き、この曲が流れた時、突然心を打たれた。

彼女はその一節を聴くと、かつて来栖季雄と雨宿りをした光景を思い出した。まるで魅了されたかのように、この曲を何度も何度も繰り返し聴いていた。

前方の道路を見つめる来栖季雄は、時折バックミラー越しに鈴木和香の様子を窺っていた。彼女がカーラジオに見入って何かを考え込んでいる様子を見て眉をひそめ、自分も耳を傾けた。すると「一番美しいのは雨の日じゃない、君と雨宿りした軒先なんだ」という歌詞が聞こえてきた。

来栖季雄は車窓の外の大雨を見つめながら、ハンドルを握る手に力が入り、しばらくして自分の感情を落ち着かせると、珍しく鈴木和香に声をかけた。「これは何という曲だ?」