鈴木和香の言葉は喉元で途切れ、驚いて来栖季雄の方を振り向くと、男の表情が知らぬ間にさらに冷たくなっていることに気づいた。車に乗った時よりもさらに険しい表情に、彼女は唇を動かしたものの、結局何も言えなくなってしまった。
車内は再び乗車時のような重苦しい雰囲気に包まれた。鈴木和香はその圧迫感から逃れるため、カーラジオのコマーシャルに意識を集中させた。
しかし、コマーシャルが流れて2分も経たないうちに、音楽が流れ始めた。そのイントロはどこか懐かしく、昔よく聴いていた曲だった。ただ、学生時代から随分と時が経っていたため、すぐには曲名が思い出せなかった。
長めのイントロが流れた後、ようやく歌声が聞こえてきた。鈴木和香は一言聞いただけで、それが福山雅治の声だとわかった。
「冷めたコーヒーがコースターを離れ、押し殺した感情が後ろに残る、必死に取り戻そうとした過去が、私の顔にかすかに見える、一番美しいのは雨の日じゃない、君と雨宿りした軒先なんだ……」