第125章 芝居の内と外(11)

来栖季雄の瞳にはまだ収まらない激情と感情が残っていた。彼は静かに彼女を見つめ、指でゆっくりと彼女の頬を二度なでた。

その瞬間、いつもは冷たく孤独な男の全身から、深い愛情だけが溢れ出ていた。

彼が彼女の頬を撫でる仕草は優しく、隠すことのない愛おしさを帯びていた。まるでこの世界で最も大切な宝物を守るかのように。少し酔ったような声で囁いた。「知ってるかい?君の何気ない笑顔一つで、僕の世界全体が温かくなるんだ。」

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キスシーンの後に告白シーンが続く。本来なら間に休憩が入るはずだったが、来栖季雄はこのまま途切れることなく演技を続けた。スタッフは驚いて監督を見たが、監督は静かにするよう手で合図を送り、モニターの映像に目を凝らし、興奮した表情を浮かべていた。

実は台本のセリフはこうではなかった。これほど何度もNGを出した後で、最後の場面で来栖季雄の演技が爆発的に冴え、即興で紡ぎ出したセリフが、こんなにも心を揺さぶるものになるとは!

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来栖季雄の声は、この世で最も心に響く愛の言葉のように、鈴木和香の耳から心の奥底まで染み渡った。彼女の来栖季雄を見つめる眼差しが、少しぼんやりとし始めた。

来栖季雄の比類なく美しい顔には、柔らかさだけが残っていた。彼は鈴木和香をしばらく見つめた後、ゆっくりとまばたきをし、冷たい声に少しかすれを帯びながら、長年心の中に秘めていた言葉をゆっくりと口にした。「君がいる季雄こそが、安らかなのだ。」

「だから……」来栖季雄の言葉とともに、彼の眉間が彼女の額に優しく触れた。彼女の頬に置かれた指が少し震え始めた。およそ30秒ほど間を置き、彼女を見つめる眼差しは哀愁を帯びた切なさに変わった。そして喉を鳴らし、限りない悲しみと切なさの滲む声で言った。「もう二度と僕から離れないでくれ、いいかい?」

来栖季雄はこれらの言葉を言い終えると、心の中で二文字を付け加えた:和香……

これらの言葉は全て彼女に向けたもので、彼女にだけ伝えられる言葉だった。

季雄という音は来栖季雄の名前を表し、安らかは彼女のことを指している。

実際に彼が本当に伝えたかった意味は、君がいる季雄こそが、安らかなのだということだった。

鈴木和香のぼんやりとした瞳は少し茫然としていた。この瞬間、彼女は完全に撮影中であることを忘れ、これら全てが美しい夢のように感じられた。