第120章 芝居の内と外(6)

撮影現場に戻り、二日目は通常通り撮影が行われ、朝から夜まで、松本雫、田中大翔、林夏音のシーンを撮影し、夜の闇が降りてきてから、ようやく来栖季雄と鈴木和香のシーンとなった。

このシーンの背景は夜に設定されており、何日も家に帰っていない男性二番手が、突然酔って帰宅し、女性二番手を自分の深い愛と勘違いして、深いキスをして告白するシーンだった。

しかし、芸能界の人々は皆知っていた。来栖季雄はデビューから今まで、ドラマで必要なキスシーンは全て、フェイクキスだったことを。

そのため、監督は早くから鈴木和香に本当のキスはないと伝えていた。しかし、それでもこれは二人にとって初めてのキスシーンだったため、和香は朝から緊張し続け、夜の撮影まで緊張が解けなかった。

監督の「準備!」の声とともに、和香は先に撮影現場に向かい、ソファに座ってテレビを見ていた。