第120章 芝居の内と外(6)

撮影現場に戻り、二日目は通常通り撮影が行われ、朝から夜まで、松本雫、田中大翔、林夏音のシーンを撮影し、夜の闇が降りてきてから、ようやく来栖季雄と鈴木和香のシーンとなった。

このシーンの背景は夜に設定されており、何日も家に帰っていない男性二番手が、突然酔って帰宅し、女性二番手を自分の深い愛と勘違いして、深いキスをして告白するシーンだった。

しかし、芸能界の人々は皆知っていた。来栖季雄はデビューから今まで、ドラマで必要なキスシーンは全て、フェイクキスだったことを。

そのため、監督は早くから鈴木和香に本当のキスはないと伝えていた。しかし、それでもこれは二人にとって初めてのキスシーンだったため、和香は朝から緊張し続け、夜の撮影まで緊張が解けなかった。

監督の「準備!」の声とともに、和香は先に撮影現場に向かい、ソファに座ってテレビを見ていた。

そして監督の「アクション!」の声に合わせて、カメラは和香を360度回転しながら撮影し始めた。

監督は撮影が極めて満足いくものになるまで待ち、来栖季雄に合図を送った。

雰囲気を出すため、季雄は少し酒を飲んでいたが、酔うほどではなかった。監督の合図を見て、彼はふらふらしながらドアを開け、部屋に入った。

和香はドアの開く音を聞いて、すぐに振り向いた。季雄が玄関で不安定な足取りで靴を脱ごうとしているのを見て、すぐに前に出て、季雄の靴を脱がせ、彼を支えながらソファまで連れて行った。水を汲みに行こうとした時、季雄は突然彼女を掴み、ソファに押し倒した。

ここまでの撮影は完璧だった。次は季雄が酔った目で和香を見つめ、見つめ合ううちにキスをするシーンだった。

しかし、季雄が和香にキスしようと顔を近づけた時、監督が「カット!」と叫び、続けて「来栖スター、表情がよくない。もう一度!」と声が響いた。

これは和香と季雄が一緒に撮影を始めてから初めてのNGで、しかも季雄が原因だった。

そこで最初から撮り直すことになったが、季雄の調子が悪いのか、それとも他の理由なのか、和香にキスをしようとする度に問題が起きた。

「カット!来栖スター、キスの角度が違います。」

「カット!来栖スター、和香さんにキスする時、目を合わせていません。」

「カット!来栖スター……」

「カット……」