彼女は腹に溜まった鬱憤を晴らす術もないまま、翌朝、思いがけずラジオ局から電話を受け、バラエティ番組のゲストが変更になり、当面は内密にするとのことだった。
あのバラエティ番組に出演するために、あの太って年寄りの局長と一晩を共にしたというのに、結局すべてが水の泡で、ただ体を許しただけという結果に終わってしまった。
それだけでも十分に憂鬱なのに、今や鈴木和香と彼女のアシスタントが、自分の傍らで鈴木和香のスキャンダルについて得意げに話し合っているのだ。二人の得意満面な様子を見ているだけでも心が落ち着かないのに、鈴木和香がさらに明るい笑顔を向けてきた。その笑顔は、まるで「協力してくれてありがとう」と言っているかのようだった。
林夏音は体の中で怒りの炎が一気に燃え上がるのを感じた。鈴木和香を皮肉るような言葉を投げかけようとした矢先、監督が鈴木和香の名前を呼んだ。
林夏音の言葉は喉に詰まったまま、もどかしい思いで鈴木和香が撮影現場に入り、松本雫の隣に座るのを見つめるしかなかった。
鈴木和香と松本雫が二言三言話し合った後、林夏音の出番となった。本来なら三人がカフェにいても互いを見かけることもなく平穏だったはずが、松本雫がトイレに行った時、彼女と林夏音が鉢合わせてしまった。
脚本では、最初に皮肉を言うのは林夏音で、すぐに松本雫の軽やかな一言で怒りを露わにする。そしてその時、鈴木和香が近づいてきて林夏音に挨拶をするが、林夏音は鈴木和香を冷たく一瞥するだけで無視し、松本雫との対立を続けるという展開だった。
これまでの撮影では、三人とも演技の手応えは上々だった。松本雫はベテラン女優として申し分なく、鈴木和香は林夏音に負けまいと、林夏音もまた鈴木和香に負けまいと、二人とも全力で演技に臨み、互いを凌駕しようと競い合っていた。
しかし、鈴木和香が林夏音に挨拶をする場面で、林夏音が鈴木和香の方を向いた時、鈴木和香は林夏音に笑顔を向けた。
その笑顔は、先ほど撮影現場に入る前に林夏音に向けた笑顔と、ほとんど同じものだった。
林夏音は瞬時に、撮影前の鈴木和香とアシスタントの会話を思い出した。ここ数日の不運も重なり、彼女は一瞬にして冷静さを失い、思わず鈴木和香を強く睨みつけてしまった。