第163章 いつかは報いが来る(5)

この場面は、もともと重要なシーンではなかったため、監督は一発で撮影したいと考えていた。そのため、後で問題が起きないように、わざと10分の時間を設けて、みんなの気持ちを落ち着かせることにした。

しかし、鈴木和香にとって、この場面が重要でないからこそ、林夏音の撮影を邪魔したかった。そうすることで、彼女を困らせることができるからだ。

林夏音は芸能界で一定期間を過ごしてきただけあって、先ほどの失態でNGを出してしまったものの、監督が与えた10分間で、きっと気持ちを立て直すことができるだろう。

鈴木和香は目を伏せて静かに考えた後、水を一本手に取り、大きな木の下で一人で立っている林夏音の方へ歩み寄った。

「水を飲みませんか」鈴木和香はボトルのキャップを開け、林夏音の前に差し出した。