第163章 いつかは報いが来る(5)

この場面は、もともと重要なシーンではなかったため、監督は一発で撮影したいと考えていた。そのため、後で問題が起きないように、わざと10分の時間を設けて、みんなの気持ちを落ち着かせることにした。

しかし、鈴木和香にとって、この場面が重要でないからこそ、林夏音の撮影を邪魔したかった。そうすることで、彼女を困らせることができるからだ。

林夏音は芸能界で一定期間を過ごしてきただけあって、先ほどの失態でNGを出してしまったものの、監督が与えた10分間で、きっと気持ちを立て直すことができるだろう。

鈴木和香は目を伏せて静かに考えた後、水を一本手に取り、大きな木の下で一人で立っている林夏音の方へ歩み寄った。

「水を飲みませんか」鈴木和香はボトルのキャップを開け、林夏音の前に差し出した。

林夏音は手を伸ばして水を受け取ろうとはせず、代わりに鈴木和香の方を向いた。鈴木和香は丁寧に微笑みかけ、外から見れば林夏音を気遣っているように見えたが、口から出た言葉は直接的だった:「写真を撮って、SNSに投稿したのはあなたですよね?」

林夏音の表情が少し冷たくなったが、鈴木和香はさらに輝くような笑顔を見せた:「私の知名度を上げるこんな素晴らしいチャンスをくれて、本当にありがとうございます」

林夏音は思わず拳を握りしめた。これから撮影があることを思い出し、今は鈴木和香とこの件で争うべきではないと自分に言い聞かせた。しばらく心の中で自分を説得し、ようやく気持ちを落ち着かせると、鈴木和香に高慢な笑みを浮かべながら手を伸ばし、差し出された水を受け取って「ありがとう」と一言言った。

そして、その場を離れようとした。

鈴木和香が林夏音のところへ来たのは、彼女の心を乱すためだった。だから、このまま林夏音を行かせるわけにはいかなかった。

鈴木和香は急いで歩を進め、林夏音に追いつくと、まっすぐ前を見つめながら、まるで一緒に撮影現場へ戻るかのように装いながら、低く柔らかな声で言った:「林夏音さん、あなたがずっとやりたがっていたバラエティ番組の出演、キャンセルになったんですよね?」

林夏音は足を止め、鈴木和香の方を向いた。言葉こそ発しなかったが、その表情は「どうしてそれを知っているの?」と問うているようだった。