林夏音は鈴木和香の目の底を見つめ、一瞬にして憎しみに満ちた表情を浮かべ、次の瞬間にも飛びかかって鈴木和香を引き裂きそうな勢いだった。
鈴木和香は落ち着き払って周りを見回しながら言った。「周りにこんなに人がいるわ。冷静になって、笑い者にならないようにね」
林夏音は歯ぎしりしながら、顔色が青白く変わり、必死に拳を握りしめ、胸が激しく上下した。
鈴木和香は自分の手を林夏音の肩から離し、優雅に身を翻して二、三歩歩いたところで、何か思い出したかのように振り返り、林夏音に向かって言った。「そうそう、言い忘れてたけど、あなたがずっと欲しがってたバラエティ番組のゲスト枠、わざと横取りしたのよ」
林夏音は本当に鈴木和香の襟首を掴んで、思い切り平手打ちをかましたかったが、周りに大勢の人がいるため、ただ一人で憤りに震えるしかなく、最後には全身が震え出した。
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松本雫が鈴木和香が林夏音に水を渡すのを見て、初めて二人に気が付いた。
遠くから見ると、鈴木和香と林夏音は友好的に会話しているように見えたが、松本雫には二人の間で無形の刃が交わされているのが分かった。
松本雫は思わず手を上げて顎に当て、興味深げに観察を始めた。しかし途中で、今日は撮影がないため現場に来ていない来栖季雄のことを思い出し、目を瞬かせながら携帯を取り出し、来栖季雄に意地悪な短信を送った。「来栖大スター、あなたの愛しい人が撮影現場で林夏音とトラブルを起こしているわよ」
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来栖季雄は午後に環映メディアの幹部とビデオ会議があり、机に向かってパソコンの画面に映る会議テーブルを囲んだ社員たちを見つめ、真剣に彼らの業務報告を聞いていた。突然、パソコンの横に置いてある携帯の画面が光り、本能的に横を見やると、松本雫からの短信だった。気になって何度か目を向けているうちに、急に携帯を手に取った。
来栖季雄の動きは、パソコンのカメラを通して環映メディアの会議室の大画面に映し出され、滔々と話していた幹部は瞬時に口を閉ざした。
来栖社長はこれまでの長年、会議中に気を散らすことは一度もなかったのに、これが初めてだった……
皆が困惑の表情を交わしているところへ、来栖季雄は突然立ち上がり、上着を羽織りながらパソコンの中の社員たちに急いだ調子で言った。「少し用事ができた。今日の会議はここまでだ」