第166章 いつかは報いが来る(8)

松本雫は来栖季雄が近づいてくるのを待って、やっと手を上げ、自分の周りの人々を追い払い、ゆっくりと歩いて彼の側に行き、さも何気ない様子で口を開いた。「私が予想していたよりも早く来たわね!」

そう言うと、松本雫は来栖季雄を上から下まで眺め回して言った。「あら、来栖大スター、随分と急いで来たのね。汗をかいているわ。それに...今走ってきたの?髪の毛が乱れているわよ...」

来栖季雄は松本雫の言葉を全く無視し、無表情でロケ現場を見回した。そして鈴木和香が休憩椅子に座り、馬場萌子と何か話をしている様子が目に入った。和香は笑顔を浮かべており、誰かと揉め事をした様子は全くない。季雄はその瞬間、松本雫に騙されたのではないかと気付き、暗い表情で雫を冷たく一瞥すると、その場を立ち去ろうとした。

「ねぇ、来栖大スター、行かないでよ!」松本雫は来栖季雄の後を追いかけ、命知らずにも男性を上から下まで見渡し、意地悪そうに言った。「来栖大スター、おでこに汗がびっしりついているわよ。もしかして走ってきたの?あら、本当に...髪の毛も乱れちゃって...でもやっぱりかっこいいわ...」

来栖季雄は松本雫のこういう性格を知っていた。相手にすればするほど調子に乗るタイプだ。だから彼女のおしゃべりを完全に無視し、足取りを速めた。

松本雫はついていくのが大変になり、二人の距離は徐々に開いていった。彼女はついに立ち止まり、周りを見回した。ロケ現場からは少し離れていたが、誰かに聞かれないように、前を歩き続ける来栖季雄に向かって、少し声を上げて慎重に言った。「来栖大スター、私は嘘なんかついてないわよ。彼女は確かに誰かともめたの。いえ、今もまだもめているわ。でも私が見た限り、彼女はその相手に完勝したみたいね。この後で仕返しされるかどうかは、私にはわからないけど?」

松本雫は自分の言葉が終わった瞬間、男性の足が止まったのをはっきりと見た。彼女は口元を歪めて笑うと、そのままロケ現場へ戻った。

ちょうど監督が松本雫を探すように指示を出していたところで、彼女が戻ってくるのを見て、すぐに三度目の撮り直しの合図を出した。

松本雫は撮影現場に入る前に、周りを見回した。先ほど去っていった来栖季雄が、いつの間にかクールな姿でロケ現場の周りに立っているのが見えた。

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