来栖季雄の脳裏に、一瞬のうちに、かつて彼女と同じ高校に入るために、中学卒業のあの夏休み、灼熱の太陽の下で建設現場でバイトをしていた日々が浮かんできた。
高校二年生の時、彼女の誕生日に、椎名佳樹が急用で来られなくなり、代わりにケーキを注文してほしいと頼まれた。五桁の値段の白鳥ケーキ屋のケーキは、当時の彼にとっては途方もない金額で、アルバイトで貯めた全ての金を使い果たした。椎名佳樹はカードをくれたが、彼は一銭も使わずにカードを返した。
芸能界で人々から蔑まれ、圧力をかけられた時の必死の抵抗が思い出される。
あの頃は、本当に全世界を敵に回してでも彼女を愛そうとした。どんなに苦しくても、それが甘く感じられるほどに。
「残念だね、ついに君を失って、ごめんね、精一杯頑張ったんだ。」