来栖季雄の脳裏に、一瞬のうちに、かつて彼女と同じ高校に入るために、中学卒業のあの夏休み、灼熱の太陽の下で建設現場でバイトをしていた日々が浮かんできた。
高校二年生の時、彼女の誕生日に、椎名佳樹が急用で来られなくなり、代わりにケーキを注文してほしいと頼まれた。五桁の値段の白鳥ケーキ屋のケーキは、当時の彼にとっては途方もない金額で、アルバイトで貯めた全ての金を使い果たした。椎名佳樹はカードをくれたが、彼は一銭も使わずにカードを返した。
芸能界で人々から蔑まれ、圧力をかけられた時の必死の抵抗が思い出される。
あの頃は、本当に全世界を敵に回してでも彼女を愛そうとした。どんなに苦しくても、それが甘く感じられるほどに。
「残念だね、ついに君を失って、ごめんね、精一杯頑張ったんだ。」
「諦めたわけじゃない、ただ会わないだけ、そうすれば自分が傷つかないと思って。」
でも、どれだけ努力しても、結局は彼女を手放さなければならなかった。
ほら、彼女が奈良に三回も来てくれたのに、彼は様々な理由をつけて会うのを避けた。
あの時は、愛していなかったわけじゃない。ただ、会わなければ少しずつ忘れられて、自分が傷つかないですむと思っていただけだ。
「残念だね、もう戻れない、心が痛んで、涙が止まらない。」
「僕はずっと断り続けた、他の人の想いを、確かめられない君のためだけに。」
でも、結局は彼女の魅力も、自分の能力も過小評価していた。
物心ついた時から、彼はいつも傷つけられる立場にいた。孤独で、毒舌で、誰に対しても容赦なかった。そうすれば自分を守れると思っていたが、実際には、自分を守る方法を一度も学べていなかった。
来栖季雄のこの歌が感動的すぎたのか、個室内の賑やかな雰囲気が徐々に哀愁を帯びていき、全員の表情が真剣になっていった。
幻想的な照明が来栖季雄に当たり、彼の表情が少し恍惚としているように見えた。彼の瞳には、まぶしい光が宿っていた。
「僕はずっと断り続けた、他の人の想いを、確かめられない君のためだけに。」
「本当は心の中で、君に離れないでと懇願したかった……」
来栖季雄がここまで歌った時、声が少し震えていた。彼は終始鈴木和香の目を見ることを避け、ただゆっくりと彼女の顔に視線を落とした。