第192章 どうして私じゃないの?(2)

来栖季雄が去ってからしばらくして、部屋の中の人々はようやく我に返ったが、誰も口を開こうとはしなかった。

部屋の中が静まり返っていたが、突然、田中大翔が口を開いた。「ずっと気になっていた曲だったんです。来栖スターが歌っているのをずっと聴いていたのに思い出せなくて。やっと分かりました。4年前、私が芸能界に入ったばかりの頃、来栖スターと一緒に撮影した映画の挿入歌でした。」

部屋の中には、その映画に出演した俳優が何人かいて、田中大翔の言葉を聞いて、みんな納得したように頷いた。その中の一人が言った。「なるほど、私も聞き覚えがあると思っていました。あの時、私たちは砂漠でロケをしていて、とても過酷な環境でした。何人かでテントに寝泊まりしていて、ある夜中にトイレに行こうと目が覚めたとき、来栖スターが眠らずに一人で砂漠に座って、空を見上げていました。何を考えているのか分かりませんでしたが、近づいてみると、周りには吸い殻がたくさん散らばっていて、イヤホンをつけていました。音量が大きかったので、私が近づいても気づかなかったんですが、まさにさっき歌っていたあの曲でした。」