第193章 なぜ私じゃないの?(3)

来栖季雄はドアを開ける動作をゆっくりと止めた。

鈴木和香の声は、いつものように優しく柔らかだったが、ドアの外に立っている来栖季雄には、はっきりと聞こえた。

「私の初恋は、みんなのような活発で可愛らしい恋じゃなかったの。私の初恋は片思いで、その男の子のことを何年も密かに好きでいたの。その人のために一生懸命勉強して特進クラスに入って、それから高校三年生の一年間も頑張って、A大学に合格したの」

「知らなかったわ、和香ちゃんが勉強の天才だったなんて」

「A大学って、一流大学じゃない。そんな優秀な人が、どうして芸能界に入ったの?」

個室の中の人々は、鈴木和香の初恋について様々な感想を述べ合っていた。

来栖季雄は唇を噛み締め、力なく壁に寄りかかった。

あの頃、彼は彼女のために数学のテストの最後のページを空白にして3組に移ったのに、彼女は他の男のために特進クラスに入った。彼は彼女のために見知らぬ奈良に行ったのに、彼女は他の男のために必死に勉強してA大学に入学した。

来栖季雄の表情は硬く、廊下の向かいの壁灯を見つめ、目がぼんやりとしていた。

通りかかった従業員が、動かない来栖季雄を見て、思わず親切に声をかけた。「お客様?何かご用でしょうか?」

来栖季雄は目を動かし、笑顔の従業員に首を振り、そしてゆっくりと体を起こして金色宮を後にした。

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初恋、片思い、青春は、誰の心の中でも最も美しい歌である。人はある年齢になると、この三つについて語り合うと、必ず尽きない感慨と数え切れないほどの話題が生まれる。

元々十一時に解散する予定だったが、みんな話に夢中になり、真夜中の十二時になって誰かの携帯が鳴るまで、こんなに遅くなったことに気づかず、それからようやく名残惜しみながら解散した。

鈴木和香はこのような集まりでは飲酒があることを知っていたので、馬場萌子に車を運転して帰ってもらい、鈴木夏美と田中大翔は少し飲みすぎていたので、田中大翔のマネージャーの車で帰るのを見送ってから、自分はタクシーを拾って桜花苑に戻った。