あの頃の来栖季雄は、演技が完璧な域に達していて、眼差しや動作の一つ一つに、その役柄の愛憎を極限まで表現することができていた。
脚本も素晴らしく、俳優の演技も素晴らしく、まさに稀有な名作だった。彼がこの作品で主演男優賞を獲得したのは、まさに実力通りだった。
この映画を鈴木和香は以前一度見たことがあったが、今見ても飽きることなく楽しめた。映画の半ばで、来栖季雄がテーブルに置いていた携帯が突然振動した。和香が季雄の方を見ると、彼はすでに携帯を手に取り、電話に出ていた。
アシスタントからの電話だった。「来栖社長、ご依頼のブランコの件について、少し進展がありました」
来栖季雄はテレビを見ている鈴木和香を一瞥したが、何も言わずに膝の上のパソコンを置いて立ち上がり、寝室を出て扉を閉めてから、電話口のアシスタントに尋ねた。「どんな進展だ?」