鈴木和香は食事を済ませると、残り物を全てゴミ袋に入れて玄関に置き、階段を上がった。
来栖季雄は優雅な姿勢でソファに座り、膝の上にノートパソコンを置いて、両手で素早くキーを打っていた。
鈴木和香はドアをノックし、来栖季雄に声をかけてから部屋に入り、薬局で買った薬を季雄の隣のソファに置いた。消炎薬を指さしながら静かに言った。「これは消炎薬です。後で忘れずに4錠飲んでください。」そして軟膏を指さして続けた。「これは外用薬です。必要なら明日来て塗ってあげますし、必要なければアシスタントに頼んでください。」
来栖季雄はパソコンを持つ手が一瞬硬くなり、そっとうなずいた。
鈴木和香もうなずき、少し沈黙した後で「もう遅いので、帰ります」と言った。
来栖季雄は何も言わず、鈴木和香は数秒待ってから「さようなら」と言い、バッグを手に取って季雄の寝室を出た。
来栖季雄はソファに座ったまま動かなかった。これまでこの別荘で一人で過ごしても寂しいとは感じなかったのに、彼女が来たせいなのか、突然彼女が帰ってしまうと、この別荘が不気味なほど広く感じられた。
来栖季雄は下から車のエンジン音が聞こえてくると、パソコンを強く握りしめ、立ち上がってベッドに向かい、しばらく探してから携帯電話を見つけ、電話をかけた。「ああ、別荘区の出口を一時的に閉めて、警備員を30分ほど休ませてくれ。ああ、ありがとう。」
電話を切ると、来栖季雄は落ち着いた様子でソファに戻り、座ってパソコンを抱え、今日会社から送られてきた緊急の書類の処理を続けた。
来栖季雄は一行打つたびに横に置いた携帯電話を見やり、15回目に顔を上げた時、案の定、画面が光り、鈴木和香からの着信が表示された。
来栖季雄はすぐには出ず、むしろゆっくりとキーボードでもう一行打ってから、のろのろと手を伸ばして携帯電話を取り、画面をスライドさせて応答した。「どうした?」
「あの、別荘区のゲートが閉まっていて、警備員もいないんですが、入館カードはありますか?」鈴木和香の柔らかな声が電話越しに季雄の耳に届いた。