来栖季雄は滅多に鈴木和香に自分から話しかけることはなかったので、和香は一瞬遅れて反応し、箸を咥えながら目をパチパチさせ、季雄を見つめ、頬を赤らめながらもごもごと小声で言った。「後ろの窓から這い上がってきたの」
窓から這い上がってきた……来栖季雄は思わず口元を引き攣らせ、箸を手に取り、適当におかずを一つ口に入れ、こみ上げてくる笑いを必死に押し殺しながら、無表情を装って黙々と食事を続けた。
鈴木和香は恐る恐る来栖季雄の様子を窺い、男が追及したり咎めたりする様子がないことを確認すると、咥えていた箸を下ろし、再び頭を下げて大人しく食事を続けた。
食堂は静かで、二人は向かい合って、無言のまま食事をしていた。
食事が終わりかける頃、来栖季雄は突然沈黙を破り、唐突に六つの数字を口にした。
鈴木和香は一瞬戸惑い、顔を上げ、大きな目を見開いて季雄を見つめ、困惑した表情を浮かべた。
来栖季雄は和香の表情をちらりと見やり、引き続き高貴で静かに食事を続け、食べ終わった時に箸を置き、再度その六つの数字を繰り返し、ついでに一言尋ねた。「覚えた?」
それは何なの?鈴木和香は無邪気に大きな目をパチパチさせながら、まず頷いて覚えたことを示し、それからまた首を振った。
来栖季雄は眉をひそめ、諦めたような、しかし甘やかすような様子で立ち上がり、食堂を出て、しばらくして付箋を持って戻ってきて、和香の前に差し出した。
付箋には、男の達筆な文字で、先ほど言った六つの数字が書かれていた。
鈴木和香は付箋を一瞥し、それから顔を上げて来栖季雄を見つめた。
男は見下ろすように彼女を見つめ、端正な顔には特別な表情はなく、ただ長く清潔な指で付箋を指し、テーブルを二度軽く叩き、そして簡潔に五文字を残した。「別荘の暗証番号」
そして、食堂の出口へと向かった。
来栖季雄は食堂の入り口で、何か思い出したように足を止め、振り返って和香に言った。「これからは窓から入るのはやめろ。もし別荘の警備システムに見つかって通報されたら、その時は警察署で保証人になんてならないからな」
来栖季雄はそう言い終えると、歩を進めて立ち去った。
階段を上がる際、後ろの掃き出し窓に寄ってみると、案の定開いたままだった。