彼はずっと、彼女が主演を務めた古典的な作品を好んでいると思っていたが、まさか彼女が『永遠に君を失った』が一番好きだと言うとは思いもしなかった。
この作品のおかげで、彼は全国的に有名になり、彼女に素晴らしい生活を与えられるようになった。しかし、この作品が公開された後、彼と彼女は別々の道を歩み始め、次第に遠ざかっていった。
だから、この作品は彼の愛であり、また彼の痛みでもあった。
来栖季雄は数秒間ぼんやりとした後、軽く瞬きをして、少し浮遊するような調子で口を開いた。「この作品は、僕が一番好きな作品でもあり、一番嫌いな作品でもある。」
「どうして?」
来栖季雄の眼差しが少しぼやけた。鈴木和香の気のせいかもしれないが、彼の無表情な顔に一瞬の悲しみを見た気がした。
「なぜなら、この作品の後、名声と富を手に入れたけど、僕にとって最も大切な人を失ったから。」