来栖季雄は眉をしかめ、キーボードを打つ動作を止めた。しばらく呆然としてから、ようやく『惚れ』がどの作品だったか思い出し、口を開いた。「あの作品ですか?ベッドシーンはスタントマンでしたよ」
鈴木和香は心の中で喜びが込み上げてきた。当時、映画館でその作品を見た時、世界中の人が来栖季雄の体を見てしまったことに、心が酸っぱく悲しくなったのに。結局、スタントマンだったなんて。
来栖季雄は目を伏せ、パソコンの画面に目を戻したが、数文字も読まないうちに、ふと気づいた。鈴木和香が先ほど、彼のここ数年の出演作をほとんど全て挙げていたことに。しかも『惚れ』のような興行収入があまり良くなかった作品まで。彼自身すら忘れかけていたのに、彼女はベッドシーンがあったことまで覚えていた……
来栖季雄は思わず顔を上げ、テレビを見ている鈴木和香に尋ねた。「僕の作品にずいぶん詳しいみたいですね?」