第215章 疑われた深い愛(3)

田中大翔は全国チェーンの中華料理店の広告契約を結んだ。その店はケンタッキーのような感じで、24時間デリバリーを行っており、看板メニューは小龍蝦だった。

契約書は田中大翔のマネージャーと環映メディアの著作権部がすでにチェックを済ませており、基本的に問題はなかったので、田中大翔は簡単に目を通してからペンを取って署名した。

鈴木夏美は田中大翔が署名を終えた時、彼の契約書を手に取って一瞥し、契約金の後ろに並ぶ零を見ても特に反応を示さず、むしろ田中大翔に向かって契約書に載っている小龍蝦の写真を指さして言った。「小龍蝦は和香が大好きなの。深夜によく吉祥寺に連れて行かされたわ」

「そうなの?」田中大翔は横を向いて、鈴木夏美に優しく微笑みかけ、そして署名を続けながら言った。「僕が契約している店の小龍蝦は美味しいよ。もし好きなら、今度君たちを連れて行くよ。無料で、思う存分食べられるから」

「いいわね」鈴木夏美は気さくに頷いた。「和香が知ったら、きっと喜ぶわ」

田中大翔は何も言わず、署名した契約書を確認し、署名漏れがないことを確認してから、目の前の著作権部マネージャーに渡した。「お手数をおかけしました」

「いいえ、田中様」著作権部マネージャーは友好的に微笑んだ。

田中大翔は頷き、「失礼します」と言って、鈴木夏美の手を引いて著作権部のオフィスを出ようとしたが、来栖季雄が脇に立っているのを見かけた。何か契約書を探しているようで、田中大翔は足を止めて「来栖社長」と呼びかけた。

来栖季雄は田中大翔の声を聞いて振り向き、鈴木夏美を見た時、特に表情を変えることもなく、軽く頷いただけで挨拶とした。

来栖季雄の前に立っていた職員がちょうど彼が探していた契約書を見つけ、両手で差し出した。「来栖社長、見つかりました」

来栖季雄は何も言わず、淡々とした表情で契約書を受け取り、パラパラと確認して自分が探していたものだと確認すると、著作権部のオフィスを後にした。

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来栖季雄は会議を終え、会社の業務を処理し終えたのは夜の8時だった。内線電話で助手に車の準備を指示し、電話を切ろうとした時、午後に著作権部で鈴木夏美と田中大翔に出会った時の夏美の言葉を思い出し、もう一度電話に向かって「少々お待ちください」と言った。

「来栖社長、何かご用でしょうか?」