来栖季雄が立ち上がった時、視線は鈴木和香の顔に落ちた。少女が大きな瞳で自分を見つめているのを見て、彼の動きは思わず止まり、彼女の目と見つめ合った。
室内の雰囲気が、何となく甘くなってきた。
来栖季雄の鈴木和香を見つめる眼差しは、次第に熱を帯びていき、鈴木和香の心臓の鼓動も早くなっていった。
突然、男性の手がそっと上がり、鈴木和香の長いまつ毛が二度震えた。思わずゆっくりと目を閉じると、男性の長く温かい指先が彼女の頬に触れ、優しく拭い取った。
鈴木和香はまつ毛を二度震わせ、来栖季雄が唇の端に残った牛乳を拭ってくれたことに気付いた。無意識に目を開けると、来栖季雄の冷たい目の奥に、優しさが混じっているのが見えた。「おやすみ」
来栖季雄はそう言うと、鈴木和香の頭に手を置き、長い間そのままでいた。何かをしようとしているようだったが、結局何もせず、ただゆっくりと二度撫でて、立ち上がってソファーへ向かった。
鈴木和香はその瞬間、呼吸が止まったかのように感じた。ただぼんやりと天井を見つめ、寝室の明かりが消えてから我に返り、横を向いて、薄暗い常夜灯の光の中、ソファーに横たわる来栖季雄を見た。
そして、心の中に言い表せないような甘い感情が湧き上がってきた。
思わず布団の中に潜り込むと、鼻腔いっぱいに男性特有の淡い香りが広がった。五年以上前、奈良で彼と同じ部屋で過ごしたあの夜に感じた香りと、まったく同じだった。
もう遅い時間なのに、二人とも少しも眠くなかった。でも、誰も声を掛けることはなかった。
室内は静かで、お互いの呼吸が聞こえるほどで、時折外から虫の鳴き声が混ざってきた。
どれくらい時間が経ったか分からないが、鈴木和香はついに眠気に襲われ、深い眠りについた。
ソファーに横たわっていた来栖季雄は、少女の呼吸が深くなったのを聞いて、やっとそっと体を動かし、ゆっくりと立ち上がって、ベッドの側に行き、眠る顔を見つめた。表情が柔らかくなった。
しばらくして、来栖季雄は手を伸ばし、少女の柔らかな頬に軽く触れ、それから身を屈めて、彼女の眉間に優しくキスをした。長い間そのままでいてから、名残惜しそうに離れ、そして脇に置いてあったタバコを手に取り、寝室を出た。
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来栖季雄の背中の傷は、四日経ってようやくかさぶたになって治った。