第221章 疑われた深い愛(9)

鈴木和香は前のめりに倒れ込んでしまったが、シートベルトのおかげでフロントガラスに衝突することはなかった。彼女は動揺を抑えながら姿勢を立て直し、隣の鈴木夏美の方を振り向いた。「お姉ちゃん、大丈夫?」

鈴木夏美はハンドルを両手で握りしめ、何度か深呼吸をして心を落ち着かせてから、鈴木和香に向かって首を振った。「大丈夫よ」

そして前を見上げると、追突した車は赤いアウディA4Lだった。

鈴木和香が最初に車を降り、追突の状況を確認した。まだ良い方で、バンパーが歪んでいる程度だった。

鈴木夏美は車を降りると、追突の状況は見もせずにアウディA4Lの前に歩み寄り、手を上げて窓をノックした。窓が下がると、まず運転手に謝罪の言葉を述べ、それから尋ねた。「示談にしますか、それとも警察を呼びますか?」

アウディA4Lの運転手は20代の若い女性で、おしゃれな格好をしており、ウェーブのかかった長い巻き髪をしていた。おそらく突然の追突に驚いたのか、顔色が少し青ざめていた。彼女も追突の状況は確認せず、穏やかで丁寧な口調で答えた。「警察には既に通報しました。修理は保険で対応しましょう」

鈴木夏美は何気なく微笑んで、バッグから名刺を取り出し、運転手に渡した。「私の連絡先です」

交通警察がすぐに到着し、まず現場の写真を撮り、両者に車を路肩に寄せるよう指示した。両車のナンバーを記録した後、運転免許証の提示を求めた。

鈴木夏美はバッグを何度か探ったが、運転免許証が田中大翔のホテルの部屋にある別のバッグに入っていることを思い出し、仕方なく田中大翔に電話をかけた。

アウディの運転手は急用があるようで、警察の処理が終わるとすぐに車で立ち去った。

交通警察には他の用事があったため、鈴木夏美と鈴木和香にその場で待つよう指示した。

約40分待って、鈴木夏美はスマホゲームの赤い星を使い果たし、退屈になって顔を上げたとき、バックミラーを通して田中大翔の車が後ろから高速で近づいてくるのが見えた。

「田中さんが来たわ」鈴木夏美はそう言いながら、既に車から降りていた。

ちょうど田中大翔の車が鈴木夏美の車の後ろに停まり、運転席のドアが開いて、降りてきたのは来栖季雄だった。