「なんてこった、来栖スターすごく強気で、わがままだわ!100億よ、100億の投資を、さっさと切り捨てるなんて、お金持ちの世界は本当に分からないわ!」
鈴木和香は馬場萌子のLINEに返信せず、馬場萌子は一人でそれだけ愚痴をこぼした後、返信がないのを見て、それ以上メッセージを送ってこなかった。
鈴木和香はスマートフォンを握りしめたまま、バルコニーに長時間立ち尽くしてから、やっと指を動かして、馬場萌子から送られてきたメッセージを一つ一つ開き、もう一度聞いた。
午後の時点では、来栖季雄が自分のためにこれらのことをしたのかどうか確信が持てなかったが、今は少し確信が持てるようになっていた。
馬場萌子のLINEから、来栖季雄が昨夜彼女を助けた時、我孫子プロデューサーを殴ったことが分かった。あの冷淡で孤高な男性が人を殴るなんて、どんな場面だったのか想像もできなかったが、彼女の心臓の鼓動は不思議と速くなっていた。
林夏音のスキャンダルが広まり、我孫子プロデューサーが『傾城の恋』の制作チームから追放されたこと...馬場萌子が言ったように、100億の資金を、さっさと切り捨てるなんて、本当に度胸があって強気だわ!
鈴木和香は思わずスマートフォンを強く握りしめた。実は来栖季雄は以前から彼女を助けてくれていた。
『傾城の恋』の制作チームの最初の食事会で、林夏音の意地悪に対して、彼の一言で解決してくれた。
彼の部屋に行った時、林夏音に写真を撮られてSNSに投稿されたが、彼が松本雫に頼んで事態を収拾してくれた。
ブランコが故障して落ちた時も、彼が真っ先に駆けつけて、彼女を受け止めてくれた。
でも、これまでの助けの中で、今回ほど彼女の心を揺さぶり、衝撃を与えたものはなかった。
鈴木和香は自分の心臓が喉から飛び出しそうなほど激しく鼓動しているのを感じた。
同じように助けてくれたとはいえ、今回は来栖季雄が彼女を守ってくれたのだと、和香は確信できた。
この認識は、和香の心に大きな波紋を投げかけた。
あんなに冷たく無愛想な男性に守られるなんて、これまで想像もしていなかった。
彼が彼女を守る理由は分からないけれど、心の中はとても感動し、幸せで、満たされていた。
さっきまで来栖季雄に電話をかけるかメッセージを送るか迷っていた和香は、この瞬間、突然来栖季雄に会いたくなった。