アシスタントは一瞬固まり、来栖季雄は立ち上がって服を着ながら、冷たい口調で言った。「車は私が先に乗っていく。明朝は直接会社に来てくれ。桜花苑には行かなくていい」
そしてアシスタントが反応する間もなく、来栖季雄はオフィスのドアを開けて出て行った。
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ジュースを飲みすぎたせいか、鈴木和香はトイレに行くことになった。バッグからティッシュを取り出す際に、スマートフォンを忘れたまま慌ててカフェを出た。
途中で携帯を忘れたことに気付いたが、急いでいたため少し迷った後、そのままトイレに向かった。
鈴木和香が離れてわずか2分後、テーブルに置いてあった携帯が鳴り始めた。
鈴木夏美は顔を上げて画面を見ると、「来栖季雄」という名前が表示されていた。少し迷った末、電話に出なかった。
通話は自動的に切れたが、30秒もしないうちに来栖季雄からまた電話がかかってきた。鈴木夏美は鈴木和香の携帯を何度も見つめ、4回目の着信の時にようやく手を伸ばして電話に出た。「私です」
電話の向こうの来栖季雄は、鈴木夏美の声を聞いて眉間にしわを寄せ、何も言わなかった。
鈴木夏美は30秒ほど待ってから、再び口を開いた。「和香はトイレに行っています。何かありましたら、戻ってきたら折り返しさせます」
「いい」来栖季雄の声がようやく冷ややかに電話越しに聞こえてきた。「もう商業施設の地下1階Bエリアの駐車場にいる。そのまま下りてきてくれ」
「はい」鈴木夏美は一旦止まり、「さようなら」と言って電話を切った。鈴木和香の携帯をテーブルに戻そうとした時、画面に2件のタオバオ発送通知が表示されているのに気付いた。
鈴木夏美は先ほど鈴木和香が嬉しそうに商品を注文していた様子を思い出し、何を買ったのか気になって開いてみた。
ケーキ作りの道具一式と、風船やキャンドルなどの装飾品の数々。
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