第295章 私が誰か見極めて(5)

もう七、八年前のことだろうか。彼女がタバコを覚えたばかりの頃、そしてすぐに、あの人に強制的に禁煙させられた……実は彼女は、今この瞬間タバコを吸っているとき、あの人が傍にいて、怒り狂って彼女からタバコを奪い、激しく叱ってくれることを、どれほど願っていることか。でも、それは彼女の願いに過ぎず、もうあの人は二度と彼女の前に現れることはないのだ……

松本雫はそこまで考えて、思わず首を振った。必死に忘れようとしていたはずの記憶を思い出すのを止めようと、もう一度深くタバコを吸い込んだ。美しい輪を吐き出すと、もやもやとした煙越しに、傍らに立つ来栖季雄が虚空を見つめ、ぼんやりとしているのが見えた。

松本雫は眉間にしわを寄せ、タバコの灰を払いながら、かすれた声で尋ねた。「どうしたの?気分が悪いの?」

そして容赦なく真実を暴いた。「鈴木和香様のことかしら?」

そうだ、和香のせいだ……

いつからだろう、自分が悲しくて、傷ついて、不幸せな時はいつも「鈴木和香」という三文字と切っても切れない関係になっていたのだろう?

来栖季雄は喉が詰まったような感じがして、これ以上話したくなかった。思い切りタバコを深く吸い込んで、無造作に話題を変えた。「今夜一人で誕生日を祝っていた友達って、好きな人なの?」

「ふふ……」松本雫は何か面白い冗談でも聞いたかのように、突然清らかな声で笑い出した。涙が出るほど笑って、来栖季雄を見つめながら、真剣な表情で言った。「死人よ」

彼女の心の中には墓があり、まだ死んでいない人が葬られている。

一見クールで無情に見える人も、心の奥底には繊細で切ない物語を隠しているのかもしれない。

男は女のように詮索好きではないので、来栖季雄は黙って追及するのを控えた。

松本雫もそれ以上は何も言わず、二人は黙々とタバコを吸い続けた。一本、また一本と。何本目かわからなくなった頃、松本雫は突然低い声で口を開いた。「実は昔の私についての噂は本当よ。私は本当に夜の女だった」

来栖季雄は一瞬固まった。松本雫が大ブレイクした頃、東京のとあるクラブのナンバーワンだったという週刊誌の記事を思い出した。

しかし松本雫は生まれながらの演技力で、芸能界での地位を着実に上げていき、最後にはそういったスキャンダルも輝かしい実績の陰に隠れてしまった。