第295章 私が誰か見極めて(5)

もう七、八年前のことだろうか。彼女がタバコを覚えたばかりの頃、そしてすぐに、あの人に強制的に禁煙させられた……実は彼女は、今この瞬間タバコを吸っているとき、あの人が傍にいて、怒り狂って彼女からタバコを奪い、激しく叱ってくれることを、どれほど願っていることか。でも、それは彼女の願いに過ぎず、もうあの人は二度と彼女の前に現れることはないのだ……

松本雫はそこまで考えて、思わず首を振った。必死に忘れようとしていたはずの記憶を思い出すのを止めようと、もう一度深くタバコを吸い込んだ。美しい輪を吐き出すと、もやもやとした煙越しに、傍らに立つ来栖季雄が虚空を見つめ、ぼんやりとしているのが見えた。

松本雫は眉間にしわを寄せ、タバコの灰を払いながら、かすれた声で尋ねた。「どうしたの?気分が悪いの?」