深夜の静けさの中、両側の通りはネオンの光で彩られていた。来栖季雄は運転席でリラックスした姿勢をとり、鮮やかな光が時折彼の顔を照らしていた。傷跡メイクを施した顔でありながらも、その骨格から滲み出る美しさは隠しきれなかった。
鈴木和香は少し頭の位置を変え、より快適な角度を見つけると、バックミラーに映る来栖季雄の姿を見つめ、うっとりとしてしまった。
前方のカーブに差し掛かり、来栖季雄は本能的に横を向き、和香側のサイドミラーで後方の様子を確認しようとした。すると、いつの間にか目を覚ましていた少女が、漆黒の美しい瞳でバックミラーを通して自分を見つめているのに気付いた。
来栖季雄は眉間にしわを寄せ、素早く前を向き直してハンドルを滑らかに操作してカーブを曲がった。そして、ルームミラーに映る椎名佳樹と九割方そっくりな自分の顔を一瞥すると、ハンドルを握る手に力が入った。
来栖季雄は我慢強く約五分ほど運転を続けたが、鈴木和香がまだじっとバックミラーの自分の姿を見つめているのに気付くと、眉をひそめ、次の瞬間にはハンドルを片手で操作しながら、もう片方の手で近くにあったメイク落としシートを取り出し、乱暴に顔を拭き始めた。
椎名佳樹の眉に合わせて描かれていた眉が、来栖季雄の動きと共にすぐに消え、彼本来の端正な眉が現れた。
顔に貼られていた傷跡も浮き上がり始め、来栖季雄が適当に引っ張ると、白く滑らかな半面が鈴木和香の目の前に露わになった。
バックミラーを見つめていた鈴木和香は瞬きをして我に返り、まず傷跡を剥がし続ける来栖季雄を横目で見た後、車窓の外を見た。東京の歓楽街で最もバーやクラブが密集している通りでは、多くの芸能人が夜に訪れることから、パパラッチも夜間張り込みをしており、エンターテインメントニュースの七、八割がここから流出していた。もし誰かに写真を撮られでもしたら、翌日には間違いなく彼女と来栖季雄のスキャンダルが一面を飾ることになるだろう。
鈴木和香は反射的に手を伸ばし、自分側の窓を閉めた。そして来栖季雄側の全開の窓を見て、窓を閉めるよう促そうとしたが、フロントガラスに目が行き、前から写真を撮られたら窓を閉めても意味がないと思い至った。