アシスタントはしばらく立っていたが、もう何も言わず、思いやりのある様子でドアを閉めて、来栖季雄の部屋を出て行った。
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「和香、来栖スターと何かあったの?」馬場萌子はエレベーターに乗ってから、ついに我慢できずに尋ねた。
鈴木和香は何も言わなかったが、視線は無意識に馬場萌子が手に持っている薬の箱に落ちて、唇を噛んだ。
「この前まで仲良さそうだったのに?彼が何かしたの?」
「和香、一体何があったの?」
馬場萌子は何度も尋ねたが、鈴木和香は最後まで答えなかった。ホテルの部屋に戻ると、すぐにバスルームに入り、シャワーを浴びて出てきてからベッドに潜り込んだ。
鈴木和香がちょうど布団を引っ張ろうとした時、何かが飛んできて、彼女の前に落ちた。
来栖季雄が彼女のために買った胃薬だった。
「和香、これは来栖スターがあなたにくれたものよ。飲むなら飲めばいいし、飲まないなら自分で捨てて。私は関わらないわ」馬場萌子のはっきりとした言葉とともに、彼女は洗面所に入っていった。
鈴木和香はその薬の箱をしばらく見つめた後、隣のベッドサイドテーブルに置き、横になって、天井を見つめながら、心の中で葛藤していた。
鈴木和香は来栖季雄が買ってきた胃薬を飲みたかったが、飲みたくもなかった。それは階下にいた時、受け取りたかったのに、自分を強制して受け取らないようにしたのと同じだった。
彼女は心の中でわかっていた。ただ自分なりの不器用な方法で、彼のところで受けた屈辱を取り戻そうとしているだけだと。
おそらく本当に胃の調子が悪かったせいで、鈴木和香は全身が疲れ切っていた。頭の中で来栖季雄が買ってきた薬を飲むべきかどうか考えていたのに、次の瞬間には意識もなく深い眠りに落ちていた。
その夜はとても深く眠り、翌朝目覚めた時、鈴木和香は気分がずっと良くなっていた。
朝から夜まで一日の撮影があり、鈴木和香は手際よく支度を整え、馬場萌子と一緒に階下のレストランに朝食を食べに行った。
朝食はいつも通り豊富で栄養満点で、鈴木和香は黄金色に揚がった油条を見つけて食欲をそそられ、特別に二本取った。