鈴木和香は指を動かし、最後にスカートの裾をぎゅっと握りしめ、来栖季雄が差し出した薬箱を受け取ろうとはしなかった。
来栖季雄は眉間にしわを寄せ、袋を持つ手に少し力を込め、鈴木和香に渡そうとする姿勢を崩さなかった。
夜も更けており、撮影クルーは全員ホテルの建物に入っていた。角の辺りは薄暗く、四人とも誰一人として言葉を発することはなく、周囲は静寂に包まれていた。
来栖季雄が手を差し出したまま長い時間が過ぎ、鈴木和香は終始無関心な様子を保ち続け、空気は次第に凍りついていった。
来栖季雄の後ろに立っていたアシスタントと馬場萌子の心の中にも、不安と気まずさが漂い始めた。
また一陣の冷たい風が吹き、寒気が身に染みて、鈴木和香は身震いし、平然とした表情で来栖季雄の手にある薬箱から視線を外し、その場を離れようとする様子を見せた。