店員は来栖季雄にいくつかの薬を紹介し、漢方薬と洋薬があり、来栖季雄は説明書を確認した後、胃を養う効果のある漢方薬を選んで支払い、店を出た。
山荘に戻ると、鈴木和香の撮影はまだ終わっていなかった。来栖季雄は助手に車を下のホテル入口に停めさせ、自身は車内で待っていた。
約30分後、遠くから車が次々と戻ってきた。
来栖季雄は車外を見つめ続け、鈴木和香の車が遠くから近づいてくるのを見ると、車のドアを開けて降りた。
助手は来栖季雄に長年付き添ってきたため、必ずしも彼の考えを全て読み取れるわけではないが、今回は来栖季雄が階上に上がらずにこれほど長く待っていたのは鈴木和香を待っていたのだと理解し、来栖季雄が降りると、急いで後に続いた。
ホテルの駐車場は既に満車で、馬場萌子は車を向かい側に停め、鈴木和香と共に歩いてホテルに向かった。
ホテルの入口に近づいた時、来栖季雄の助手は気を利かせて「君」と声をかけた。
鈴木和香と馬場萌子は同時に足を止め、声のする方を見ると、来栖季雄と助手が近くの木の下に立っているのが見えた。そこは光が少し暗く、彼の表情は見えなかった。
馬場萌子は鈴木和香の方を振り向いて「来栖スターがあなたを探してるわ」と言った。
鈴木和香はまるで馬場萌子の言葉を聞いていないかのように、唇を噛み、その場に立ち尽くしたままだった。
助手は思わず来栖季雄の方を見て、再び「君、こちらです」と声をかけた。
馬場萌子は「和香、なんでそこに立ち尽くしてるの?」と言った。
鈴木和香は目を伏せ、まだ近づく様子を見せなかった。
助手は心配になり、もう一度鈴木和香を呼ぼうとした時、隣にいた来栖季雄が自ら歩み寄り始めた。
助手は目を見開き、丸30秒ほど呆然としてから、急いで後を追った。
来栖季雄は鈴木和香との距離が半メートルになったところで足を止め、近くの黄色い街灯の下で眉を寄せ、鈴木和香を見つめた。
郊外の夜風が冷たく吹き、鈴木和香の長い髪が乱れた。
来栖季雄は鈴木和香をしばらく見つめ、彼女が一言も発する様子がないことに気づくと、目に失望の色を浮かべ、手に持っていた袋を鈴木和香に差し出して「これ、あなたに」と言った。
袋は透明で、鈴木和香はそれが胃薬だとかすかに分かった。
彼女の指先が微かに震え、言い表せない悲しみが心の中に広がった。