ちょうど玄関に着いたとき、秘書は来栖季雄がゴミ箱の中で何かを探しているのを目にした。
桜花苑のゴミは毎日定時に回収されているものの、夏場だったため、ゴミ箱からは不快な臭いが漂っていた。
秘書は一瞬固まった後、素早く近寄り、鼻を押さえながら声をかけた。「来栖社長、ここは汚いですから、何かお探しでしたら人を呼んで探させましょうか…」
来栖季雄は秘書の言葉など全く聞こえていないかのように、黙々とゴミ箱の中を探し続け、そして目が輝いたかと思うと、中から黒いゴミ袋を取り出した。
秘書は慌てて一歩後ずさり、来栖季雄がゴミ袋を開けるのを見ていた。彼は魂が抜けたかのように、ゴミ箱の傍らに立ち尽くし、ゴミ袋の中を見つめていた。
ケーキは既に原形を留めないほど腐っており、クリームが袋全体に付着し、その中には風船の切れ端も混ざっていて、腐敗した乳の香りを放っていた。