第306章 椎名佳樹が反応した(6)

鈴木和香は自分のお腹が空いているのを感じていたものの、食欲があまりなく、食事の動作がもたもたしていた。

馬場萌子が運んできた皿には、料理が山盛りで、小さな白い茶碗も二つ置かれていた。

馬場萌子は座って、その中の一つの白い茶碗を鈴木和香の前に置いた。「和香、今作り立ての東坡肉よ、あなたの分を持ってきたわ。」

「ありがとう。」鈴木和香は返事をして、茶碗の蓋を開けた。濃厚な肉の香りが立ち込めてきたが、食欲をそそるどころか、むしろ胃の具合が悪くなってきた。

このホテルの東坡肉は、奈良の料理人が作っていて、味は本場そのもので、ここの看板料理と言えるものだった。鈴木和香はいつもとても好んで食べていたのに、今回は何故か、箸で少し赤身を取って口に入れ、少し噛んだだけで、味が変だと感じ、体が落ち着かなくなった。そのため口の中の肉を吐き出し、自分が取った青菜を食べることにした。

「どうしたの?」馬場萌子は口の中に食べ物を含んだまま、声が不明瞭だった。

「胃の調子が良くないの。」鈴木和香はほとんど食べていないのに、もう満腹感を感じ、手の箸を置いて、向かいの馬場萌子を見ながら言った。「たぶん昨日お酒を飲みすぎたからかな。」

食事の後、ホテルの部屋に戻った鈴木和香は疲れて横になり、すぐに眠りについた。

昨夜の睡眠不足のせいか、彼女は深い眠りに落ち、最後は馬場萌子に叩き起こされた。

鈴木和香は物足りない様子で目を開け、ぼんやりとした様子で「どうしたの?」と尋ねた。

「何がどうしたのよ?夜には撮影があるでしょう。早く起きて夕食を食べて撮影現場に行かなきゃ!」馬場萌子はそう言いながら、彼女の体にかかっていた薄い毛布を一気にめくった。

鈴木和香はその言葉を聞いて、反射的に窓の外を見た。すでに夕暮れ時で、スマートフォンで時間を確認すると、もう夜の6時近くになっていた。すぐに目が覚め、慌てて床から降り、洗面所で簡単に身支度を整えてから、馬場萌子と一緒にレストランへ向かった。

夜もあまり食欲がなく、鈴木和香は色々選んだ末、結局冷菜一品とお粥一杯だけを選んだが、それさえも食べきれなかった。

馬場萌子は麻辣魚を皿に山盛りにして、彼女の隣で熱心に食べていた。