第339章 2つの「ごめんなさい」(19)

秘書は電話の向こうでまだ何かを喋り続けていたが、突然来栖季雄の呟きを聞いて、その言葉は完全には聞き取れなかったものの、電話から漂ってくる殺気を感じ取り、思わず身震いして本能的に叫んだ。「来栖社長?」

来栖季雄は秘書の声など全く耳に入っていなかった。ただ冷たく繰り返し続けた。「私の子供を殺した……」

今度は秘書も来栖季雄の言葉をはっきりと聞き取ったが、その意味がすぐには理解できず、思わず尋ねた。「どの子供を……」

しかし、秘書はその四文字を言っただけで、すぐに来栖季雄の言葉の意味を理解した。しばらく沈黙した後、口を開いた。「来栖社長、君さんが椎名家から貰った燕の巣を食べたことで、お子様を失ったということですか?」

「子供を失った」という言葉が、来栖季雄の意識を一気に覚醒させた。いつもは冷静な彼が、何かに刺激されたかのように突然電話を切り、携帯電話を向かいの壁に激しく投げつけた。