来栖季雄は後ろから聞こえる足音が、次第に遠ざかり、ついには消えてしまうまで、全ての力が抜けたかのように、近くの休憩用の椅子に崩れるように座り込んだ。そして、ようやく先ほど起きたことを、頭の中で丁寧に思い返した。
妊娠二ヶ月、流産……
来栖季雄は悪夢にとりつかれたかのように、最後には意識の中にこの二つの言葉しか残っていなかった。
鈴木和香は妊娠していたんだ、もう二ヶ月も。あと二ヶ月経てば男の子か女の子かわかるはずだった。あと八ヶ月で赤ちゃんが生まれてくるはずだった。一年と八ヶ月後には、よちよち歩きで自分の前まで来て、まだはっきりしない言葉でパパと呼んでくれるはずだった……
なんて素晴らしいことだったのに、どうしてこんな悲しく残酷な結末になってしまったのだろう?
彼の子供が……鈴木和香と彼の子供が……どうして流産してしまったのだろう?