第324章 2つの「ごめんなさい」(4)

千代田おばさんは階下に立ち、来栖社長が帰宅するなり急いで階上に駆け上がったことを不思議に思っていた。考えた末、きっと社長は奥様に会えなかった期間が長かったので、待ちきれなかったのだろうと思い、微笑みながら自分の部屋に向かおうとした。しかし、ドアを開けた途端、来栖季雄の声が階上から聞こえてきた。千代田おばさんは一瞬も躊躇せず、階段を駆け上がった。ドアを開けると、来栖季雄が毛布を手に、鈴木和香を抱きかかえて慌てて出てくるところだった。千代田おばさんを見るなり「すぐに車を用意しろ!」と怒鳴った。

千代田おばさんは「奥様はどうされたのですか」と聞こうとしたが、来栖季雄にそう怒鳴られ、言葉は喉に詰まってしまった。素早く走り去った。

来栖季雄が鈴木和香を抱えて部屋から出てきた時には、千代田おばさんはすでに車のドアを開けていた。来栖季雄は和香を車に乗せ、シートベルトを締め、千代田おばさんの「奥様はどうして突然気を失われたのですか?」という問いかけを無視して、車に乗り込み、アクセルを踏んで敷地から猛スピードで出て行った。