第332章 2つの「ごめんなさい」(12)

秘書は目の前で黙って煙草を吸い続ける来栖季雄を見つめていた。その表情には冷淡さと高慢さしかないはずなのに、どういうわけか、そこには一筋の情熱と執着が見て取れた。

秘書は一瞬何を言えばいいのか分からなくなった。心の中で思った。この世界には、間違いを犯した多くの人が必死に隠そうとする。しかしそのほとんどは、嫌われることを恐れたり、向き合う勇気がないからだ。でも来栖社長の場合は、あまりにも相手を思いやりすぎているからなのだ。

二人は長い間沈黙を保っていたが、やがて秘書は雑念を振り払い、静寂を破った。「来栖社長、他に用件がなければ、会社に戻らせていただきます。」

来栖季雄は頷き、「ああ」と一言返した。秘書は軽く会釈をして、その場を去った。

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鈴木和香が目を覚ましたのは、午後3時だった。