第346章 2つの「愛してる」(2)

忙しい日々は、いつも早く過ぎ去り、あっという間に最後の数シーンとなった。

しかし、最後の数シーンを撮影する前に、『傾城の恋』は事前にプロモーション発表会を開催することになった。

プロモーション発表会の会場は東京都心の帝国グランドホテルに決まり、時間は午後4時30分、著名なメディアが全て招待された。

発表会には劇中の主要キャストが参加することになり、全員が撮影現場にいたため、会場に向かう前に撮影所のメイクルームで化粧をすることになった。

来栖季雄は仕事の用事があり、電話をしながらメイクルームに入ってきた。午後の発表会に参加する俳優たちは既にメイクを始めており、全員が彼を見かけると丁寧に「来栖社長」と挨拶をした。

来栖季雄は無表情で頷きながら、電話に時々返事をし、慣れた様子で自分のメイク席へと向かった。

来栖季雄のメイク席は鈴木和香のメイク席と背中合わせになっており、座るとすぐに鏡越しに後ろの鈴木和香が見えた。彼は電話での会話を聞きながら、後ろの彼女の様子を気にかけていた。おそらくエアコンが強すぎたせいで、寒そうにしている彼女は、メイクさんがパフを探している間に、露出した腕をこすりながら、思わず身震いした。

来栖季雄は眉間にしわを寄せ、医師から術後一ヶ月は絶対に冷やさないように言われていたことを思い出し、電話口に「申し訳ありません」と低く言って電話を切り、後ろに立っている助手に不機嫌そうに尋ねた。「どうしたんだ、エアコンこんなに強くして」

助手は背広姿の来栖季雄を不思議そうに見た。外から入ってきたばかりで鼻先に汗が浮かんでいるのに、心の中で疑問を感じながらも、素直に答えた。「今リモコンを探して、温度を上げてきます」

来栖季雄は何も言わなかったが、助手が二、三歩歩いたところで突然口を開いた。「もう切ってしまえ」

来栖季雄の後ろに座っていた鈴木和香は、来栖季雄と助手のやり取りをはっきりと聞いていた。鏡越しに、外から入ってきた来栖季雄と助手の顔に浮かぶ汗を見て、心が少し震えた。