翌日は、鈴木和香と来栖季雄が撮影現場に戻る日だった。今回は撮影が終わるまでずっと現場にいることになるので、和香は小物を多めに持っていた。千代田おばさんは彼女が大小の荷物で手間取っているのを見て、スーツケースにまとめてくれた。
馬場萌子が先に桜花苑に和香を迎えに来て、スーツケースは季雄が階下まで運び、別荘の玄関まで引きずって、トランクに入れた。
和香は車のドアを開けたが、すぐには乗り込まず、まず千代田おばさんに別れを告げ、それから季雄に薬を飲むのを忘れないよう注意を促した。しかし、二言三言言い終わらないうちに、季雄のアシスタントも車で到着したので、和香は季雄に言おうとしていたことを、最初から最後までアシスタントに繰り返して説明した。
アシスタントは恭しく聞きながら、「はい、君、承知いたしました。ご安心ください」と何度も言った。