目の奥の潤みが濃くなっていき、やがて霞となって、今にも零れ落ちそうに目尻に掛かり、鈴木和香は目の前の光景がよく見えなくなっていた。ただぼんやりとたくさんのろうそくの光が見えるだけで、彼女は必死に唇の端を上げて「ありがとう」と言おうとしたが、唇が少し動いただけで、涙が抑えきれずに頬を伝って落ちてしまった。
来栖季雄は片手でケーキを持ち、空いた手を伸ばして彼女の頬の涙を拭い、そして穏やかな声で促した。「願い事をする時間だよ」
鈴木和香は慌てて頷いたが、また数滴の涙が落ちた。彼女は更に大きく笑顔を作り、目を閉じて心の中で願い事をした。願い事が終わって目を開けると、また一筋の涙が静かに流れ落ちた。深く息を吸い込んで、ろうそくを吹き消した。そして涙を浮かべながら来栖季雄に向かって明るく微笑み、少し詰まった声で言った。「ありがとう...」