第369章 椎名佳樹が目覚めた(9)

寝室の電気はついていなかった。鈴木和香が寝室のドアを開け、習慣的に壁のスイッチに手を伸ばしたが、押す前に部屋に明かりがあることに気づいた。眉をひそめながら、中に入ると、その場で立ち止まってしまった。

彼女の足元には、二列に並んだろうそくがあり、その間には約1メートルの幅があった。まるで小道のように、ベッドとソファーを迂回して、さらに明るいバルコニーへと続いていた。

ろうそくの光で、和香は寝室の四方の壁に薄いピンク色と薄い紫色の風船が貼られているのを見た。テレビに向かい合う壁には、風船で作られた「お誕生日おめでとう」の文字があった。

この光景は見覚えがあった。和香はしばらくその場に立ち尽くしてから、ろうそくで作られた小道に沿ってバルコニーへと歩き始めた。ソファーを回り込むと、バルコニー全体に密集して並べられた灯されたろうそくが目に入った。オレンジ色の炎が揺らめき、その中央に置かれた未点火の赤いろうそくが際立っていた。そこには六文字:「和香、誕生日おめでとう」。