第400章 さようなら青春、さようなら私の恋（10）

しかし、鈴木和香と来栖季雄の唇が触れ合った瞬間、彼らは演技なのか現実なのか、もはや区別がつかなくなっていた。

彼と彼女は8ヶ月以上夫婦を演じてきたが、本当の意味で親しくなったのは、『傾城の恋』の撮影現場に入ってからだった。

この作品の撮影は丸3ヶ月以上かかり、この期間中の二人の接点は、これまでの13年間よりも多かった。この3ヶ月の間には、涙あり、笑いあり、温もりあり、感動ありと...今や、彼らに多くの思い出を与えたこのドラマはまもなくクランクアップを迎え、現実の世界での夫婦役も終わりを迎えようとしていた。

二人は激しく、絶望的なまでにキスを交わした。まるで心の奥底に秘めた言い表せない愛情を、全力で解き放つかのように。

モニターの前に立つ監督は、このキスシーンに大変満足し、そろそろ十分だと思って拡声器を手に取り、「カット！」と叫ぼうとした瞬間、目薬を使わずに目を閉じていた鈴木和香の頬を、キスと共に涙が伝い落ちるのを目にした。

俳優が役に入り込んで感情的になることは多々あるため、監督はこれを鈴木和香のアドリブだと考え、拡声器を下ろしてスタッフに撮影続行を指示し、自身はモニターの映像に真剣に見入った。

鈴木和香の涙は頬を伝って唇まで流れ、彼女と来栖季雄のキスの中に溶けていった。

来栖季雄は塩味を明確に感じ取り、一瞬戸惑ったものの、さらにキスを深めた。

長いキスの後、二人は息を切らしながら離れた。

鈴木和香が目を開くと、涙がぽろぽろと落ちていき、同じく目薬を使っていなかった来栖季雄の目も赤く潤んでいた。二人はゆっくりと顔を上げ、見つめ合い、まるで事前に練習していたかのように、同時に口を開いて言った。「愛してる」

これは脚本にはなかった展開だった。監督はこの場面を見て、興奮と感動の表情を浮かべ、二人が約2分間見つめ合った後、興奮して拡声器を掲げ、「カット！」と叫んだ。

この撮影は完璧に終了し、スタッフはすぐに片付けに取り掛かった。監督は来栖季雄と鈴木和香の元へ小走りで駆け寄り、「来栖スター、和香さん、あなたたち本当に才能がありますね。あんなに素晴らしいアドリブを加えるなんて！さっきの演技は本当に素晴らしかった！完全に衝撃的で感動的でした！」