翌朝早く目が覚めると、鈴木和香は窓の外の天気がひどく悪く、スモッグが濃く、街全体がベールに包まれているのを見た。馬場萌子は既に荷物をまとめ終え、ホテルのスタッフが荷物を車に運び入れるのを手伝っていた。出発前に、和香は特別に撮影現場に立ち寄り、最後のシーンを撮影中の監督、田中大翔、松本雫、そして他のスタッフ一人一人に別れを告げた。
最初はどのような形でこの撮影チームに加わったにせよ、また誰のシーンが多いとか少ないとかで揉め事があったにせよ、別れの時を迎えた今、当時は大事に思えた恨みや怨みも、今となってはどうでもいいことのように思えた。みんな三ヶ月以上にわたる昼夜を共にした撮影生活に対して、抱擁を交わし祝福の言葉を贈り合った。
和香は決して感傷的な性格ではないと思っていたが、みんなと別れを告げる時、やはり目が潤んでしまった。
和香は桜花苑には戻らず、直接馬場萌子に椎名佳樹が入院している病院まで送ってもらった。荷物は一旦萌子の家に預け、後で時間があるときに取りに行くことにした。
萌子の車が走り去ると、和香は病院に入った。椎名一聡は用事で来ていなかったが、赤嶺絹代と執事は看護師の助けを借りて荷物の整理をしており、佳樹は検査を受けているところだった。
和香は前に進み出て、絹代と一緒に佳樹の服を整理するのを手伝い、病室には特に片付けるものが残っていないことを確認すると、執事に荷物を先に車に運んでもらった。約10分待つと、医師が出てきて、佳樹の注意事項と定期的な検査の必要性について説明し、その後、医師と看護師の付き添いのもと、みんなで車に乗り込んだ。
車は椎名家まで走り、この時の佳樹は既に歩くことはできたものの、長期の昏睡で体力が弱っていたため、家に着くとすぐに、絹代は使用人に佳樹を支えて彼の寝室まで連れて行き、休ませるよう指示した。
絹代は佳樹を迎えに行く前に、既に家の使用人に飲み込みやすい薬粥を作るよう指示していた。佳樹が落ち着くと、執事はすぐに使用人に粥を運ばせ、嬉しそうに優しく言った。「坊ちゃま、朝から退院の準備で忙しく、まだ何も召し上がっていませんね。奥様が朝早くから体に良い粥を作らせていました。少しお召し上がりになりませんか。」