電話を切ると、椎名佳樹は来栖季雄と彼の秘書がビルから出てくるのを見かけた。少し躊躇した後、佳樹は車のドアを開けて降り、季雄に向かって手を振った。
来栖季雄は椎名佳樹を見て、眉を少し動かし、歩み寄ってきた。「どうしてここにいるんだ?」
椎名佳樹はまず「兄さん」と呼びかけ、それから来栖季雄の質問に答えた。「和香を迎えに来たんです。」
来栖季雄の傍らに立っていた秘書は、心臓が一瞬ドキッとして、急いで椎名佳樹に挨拶し、話題を変えた。「椎名様、お久しぶりです。」
椎名佳樹は来栖季雄の秘書に礼儀正しく微笑み返し、振り向いて、誠意を込めて来栖季雄に誘いの言葉を掛けた。「兄さん、今夜鈴木夏美が金色宮でみんなをカラオケに誘ってるんですが、時間ありますか?特に用事がなければ、一緒に行きませんか。」