第446章 なぜ私の子供を望まなかったの?(6)

「来栖スター!」馬場萌子は鈴木和香が崖から落ちたことにまだ気が付いていない状態で、すぐに来栖スターが飛び降りるのを目にし、思わず普段使っている呼び方で叫んでしまった。

「来栖社長!」来栖季雄の後ろについていた秘書は、彼の名前を叫んでから崖端まで走り寄ったが、高所恐怖症の秘書は下を一目見ただけで、怖くて顔を覆って振り向いてしまった。

-

鈴木和香は空中に浮かんで急速に落下している時になって、やっと自分が危険な状態にあることに気付いた。その後、冷たい川の水に落ちてしまい、心の準備ができていなかったため、何口か水を飲んでしまった。手足をばたつかせて二、三回もがいた後、水面に顔を出し、岸に向かって「助けて!」と叫んだ。しかし、すぐに下流に向かう水が彼女の頭を打ち、再び水中に沈め、助けを求める声を消し去った。

鈴木和香が再び水面に顔を出した時には、すでに流れによって崖から数十メートルも流されていることに気付いた。岸に向かって泳ごうとしたが、水流が速すぎて抵抗が大きく、全身の力を振り絞っても前に進むどころか、さらに数十メートルも後ろに流されてしまった。

渦巻く川の水が絶え間なく彼女の頭を打ち、耳に水が入って聴覚が著しく妨げられた。目を開けても、見えるのは白く濁った水と、とても登れそうもない急な岩壁だけだった。

鈴木和香の全身の力はすぐに尽き果て、水に浸かった両足にしびれを感じ始めていた。絶望感が彼女の心を覆い尽くした。

鈴木和香は以前テレビでこのような展開を見たことがあった。その時は、こんなシーンはテレビの中でしか起こりえないと思っていたのに、まさか自分の身に降りかかるとは思ってもみなかった。

しかし、彼女はテレビの中のヒロインではない。主人公の光環も持っていないし、命を懸けて助けに来てくれる主人公もいない。今や手足の力は尽き、体全体がゆっくりと沈み始めているのを感じた。死の気配が徐々に自分を包み込んでくるのを感じていた……

まさか、名前も知らないこの川で命を落とすことになるのだろうか……

人には生存本能があるもので、鈴木和香も例外ではなかった。彼女はまだ死にたくなかった。必死に浮かぼうとしたが、力の抜けた四肢はまったく力を入れることができなかった。