第436章 彼の静かな寄り添い(23)

来栖季雄は翌日、いつもどおり早起きして会社へ向かった。椎名佳樹の別荘の前を通る時、わざと車のスピードを落とし、窓越しに金色の陽光が屋根一面に降り注ぐのを眺めた。

昨夜、鈴木和香と二言三言話せたせいか、来栖季雄の今日の気分は悪くなかった。仕事を片付けた後、コーヒーを手に取りオフィスの床から天井までの窓の前に立ち、昨夜の鈴木和香との会話を一言一句、何度も頭の中で反芻した。

実際、昨夜の会話には特別な意味など何もなかったのに、思い返すうちに、彼の唇の端がわずかに上がっていた。

別荘から桜花苑の入り口まで、何度も歩いたあの道さえも、なんだか愛おしく感じられた。

来栖季雄が長い間考え込んでいると、コーヒーを飲もうと頭を下げた時、オフィスのドアをノックする音が聞こえた。来栖季雄はコーヒーを飲み込み、静かな調子で「どうぞ」と言った。

ドアが開き、アシスタントが書類を手に入ってきた。「来栖社長、こちらにサインをお願いします。」

来栖季雄は執務机に戻り、コーヒーカップを置き、書類を受け取って二、三枚めくった後、ペン立てからサインペンを取り出してサインし、アシスタントに書類を渡した。

アシスタントは両手で書類を受け取り、さらに言った。「あ、そうそう、来栖社長、もう一つ。以前鈴木様にアレンジしていただいたバラエティ番組の件ですが、テレビ局から連絡がありまして、今月9日に収録があるそうです。もしご異議がなければ、鈴木様に連絡して準備していただくよう手配いたしますが。」

「ああ……」来栖季雄は自然に返事をしたが、アシスタントが書類を持って立ち去ろうとした時、突然「待って」と声をかけた。

アシスタントは少し困惑して足を止め、振り返った。「来栖社長、他にご用件は?」

来栖季雄は少し間を置いてから、「私から彼女に連絡しよう」と言った。

アシスタントは最初、反応できなかった。一瞬の後、来栖季雄の意図を理解し、すぐに頷いて丁重に答えた。「かしこまりました、来栖社長。」

来栖季雄はアシスタントが退室し、ドアを閉めるのを待ってから、机の上の携帯電話を手に取り、この20日余りの間、何度も入力しながら一度も発信することのなかった11桁の番号を入力した。

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生理初日は体調を崩しやすく、鈴木和香は昼まで寝床でぐずぐずしていた。