来栖季雄が目を覚ましてしばらくすると、千代田おじさん、千代田兄、千代田姉の三人が鍬を担いで、畑から戻ってきた。
来栖季雄は昼食時に、この辺りに電話があるか尋ねたが、この村で唯一電話を設置している家は、昼間は留守だった。先ほど千代田兄が畑から戻る時に、ちょうどその家が開いているのを見かけたので、帰宅するとすぐに来栖季雄を連れて行った。
千代田兄が来栖季雄の状況を説明すると、その家の人は千代田兄と来栖季雄を家の中に案内し、テーブルの上にある唯一の電話を指さして、来栖季雄に使わせてくれた。来栖季雄は近づいて受話器を取り、秘書の電話番号を入力した。
電話はすぐに繋がり、秘書は焦りを帯びた声で話し始めた。「来栖社長と君の情報はありましたか?」
来栖季雄は少し間を置いてから、淡々とした声で二文字だけ言った。「私だ」