セキュリティチェックに向かう時、来栖季雄は検査台の上で自分の携帯が「ピンポン」と鳴るのを聞いた。彼の足取りが一瞬止まったが、結局そのままセキュリティゲートを通過した。
検査を終えて、来栖季雄は身につけていた物を一つずつポケットに戻した。意図的に携帯を最後に手に取り、本来は見るつもりはなかったが、結局我慢できずに画面をちらりと見た。案の定、LINEの通知で、鈴木和香からの「?」だった。
来栖季雄は画面を見つめ、喉仏が二度上下に動いた。そして目を伏せ、瞳の奥の感情を隠し、顎を強く引き締めて何かを抑えているかのように、携帯をポケットに戻した。
来栖季雄が到着した時、飛行機の離陸まで残り30分だった。セキュリティチェックを終えると、客室乗務員が直接VIP通路から搭乗へと案内した。
機内では安全に関する案内が流れており、来栖季雄は座席に座ってシートベルトを締めた。
秘書が携帯の電源を切る時、隣で無反応の来栖季雄を見て声をかけた。「来栖社長、電源を切る必要があります。」
来栖季雄は一言も発せずに携帯を取り出し、電源を切ろうとした時、画面に鈴木和香からのLINEが表示され、指が再び止まった。
ファーストクラス担当の客室乗務員がメニューを持って近づき、丁寧な笑顔で尋ねた。「お二人様、離陸後にお飲み物はいかがでしょうか?」
秘書が答えた。「コーヒーを二つ、お願いします。」
「承知いたしました。」客室乗務員がメモを取り、来栖季雄の携帯の画面がまだ点いているのを見て、友好的に静かに注意した。「お客様、お手数ですが携帯の電源をお切りください。ありがとうございます。」
来栖季雄は画面を指で二度なぞり、最後に大きな決心をしたかのように、電源ボタンを押した。
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鈴木和香はソファーに座り込んで、テレビを見ながら来栖季雄からの電話を待っていた。
時間がチクタクと過ぎていき、最後には鈴木和香も待ちくたびれてきた。もうすぐ12時になるというのに、来栖季雄からは何の動きもない。鈴木和香は我慢できずに携帯を手に取り、来栖季雄に電話をかけ、どうなっているのか聞こうとした。
通信は繋がったものの、携帯からはドコモの案内音声が流れてきた。「申し訳ございません。お客様のおかけになった電話は、電源が入っていないか、電波の届かない場所にあります。」
電源オフ?