来栖季雄は答えなかった。
アシスタントはまた尋ねた。「来栖社長、もしかして家庭ドラマに投資するおつもりですか?」
返事は相変わらず沈黙だった。
アシスタントは口を閉ざし、もう声を出さず、時々バックミラーを通して来栖季雄を見やった。
男性は眉間にしわを寄せていたが、表情は不機嫌というよりも、むしろ少し心配そうで悔しそうだった……夏美様は来栖社長に一体何を言ったのだろう?
アシスタントの心の中で疑問が深まる中、後部座席に座っている来栖季雄が突然声を出した。「明後日はグアムの方で提携があったよな?」
「はい、来栖社長」話題の転換が急すぎて、アシスタントの頭が少しついていけず、一瞬置いてから言った。「間宮総監が今夜グアムに飛ぶ予定で、今回の提携を担当することになっています」
来栖季雄は平坦な口調で言った。「彼に電話して、今夜は行かなくていいと伝えてくれ」
アシスタントが「えっ?」と声を上げると、来栖季雄の声が再び聞こえてきた。「グアム行きのチケットを2枚予約して、君が私に同行して、今回の提携を担当することになる」
アシスタントは「はい」と答えたが、来栖季雄の考えがますます分からなくなってきた。
本来なら今回の提携は来栖社長がグアムに出張して担当するはずだったのに、昨日の午後の会議で強引に間宮総監に押し付けたのに、今夜になって、おそらく間宮総監はもう空港に向かっているだろうに、突然自分が行くと言い出した。
アシスタントは心の中で非常に不思議に思いながらも、携帯を取り出して間宮総監に電話をかけた。
電話を切ると、アシスタントはまずチケットを予約し、それから言った。「11時半の便です。今から空港に向かえばまだ間に合います。着替えの衣類については、グアムのホテルの方に手配させていただきます」
来栖季雄は「うん」と一声出して同意を示し、その後彼の携帯がチンと鳴り、習慣的に画面を見ると、鈴木和香からのLINEメッセージだった。【まだ仕事中?】
来栖季雄は携帯のロックを解除し、文章を打ち始めたが、少し躊躇してから結局一文字ずつ消して、携帯を車の座席に裏返しに置いた。
-